お客さんの情報をどこまで持っておくか

前回の話を覚えていたから、また来てくれた。そういう積み重ねで本指名が付いていきます。だから、お客さんのことをメモに残すのは自然な流れです。

一方で、その人の本名や勤務先まで手元に置いている人もいます。何かあった時の材料になると思って集めていることもあれば、話の流れで知ったことを、そのまま書き足していることもあります。

自分の身元をどう守るかは何度も話題になりますが、こちらがお客さんの情報をどこまで持つかは、あまり話に出ません。持っている量が問題になるのは、たいてい後になってからです。

覚えていないと続かない仕事でもある

指名で来る人との接客は、前回の続きから始まります。いつもの呼び方が出てくる、この前の話を覚えている、前に話したことをもう一度説明しなくていい。そういう小さい部分で「覚えていてくれた」が残ります。

一日に何人も相手にして、そこから何週間か空いてまた来る人もいる。全部を頭だけで覚えておくのは無理があるので、何かに書いて残すことになります。ここまでは、仕事を回すための記録です。

問題は、書き始めるとどこまでも増やせることです。話しているうちに勤め先が出て、家族の話が出て、住んでいる街まで分かる。メモを取る癖があると、次に使うかどうかを考えず、そのまま一行ずつ増えていきます。

線を引くなら、次に会った時にその情報を使うかどうかです。前回どんな話をしたかは使います。

次の接客に使う記録だけを残す

残す内容は、それほど多くなくても回ります。普段の呼び方、前回話したこと、よく選ぶコース、次に聞こうと思っていた話。このくらいでも、前回の続きから始めるための手掛かりになります。

反対に、本名、勤め先、自宅の場所、家族の名前、私用の電話番号、個人のSNSなどは、接客を続けるために使いません。向こうから話してくることはあっても、聞いた分をそのままメモへ移すかどうかは選べます。

ここは「その情報だけで本人を特定できるか」だけで分けると少し足りません。勤め先と住んでいる街、本名とSNSのように、別々では広くても組み合わせると一人へ近づく情報があります。

見るところは二つです。次に会った時に使うのか。そのメモが外へ出た時に、相手が困る内容なのか。後者に寄るほど、持たない理由が大きくなります。

スクリーンショットも同じです。やりとりを残したつもりでも、画面には表示名、アカウント名、写真、通知などが一緒に入ります。それが写真アプリへたまると、日記や宣材に使う写真と、お客さんの情報が同じ場所へ並びます。

置き場所で外へ出る範囲が変わる

同じメモでも、どこへ置くかで見える場所が変わります。スマホの中だから自分しか見ない、とは言い切れません。

連絡先として登録すると、使っているアカウントの同期先にも入ることがあります。Googleの連絡先はアカウントへ保存していればログインしている端末間で同期され、iCloudの連絡先も設定していれば同じApple Accountの端末で共有されます。

仕事用のスマホへ入れたつもりでも、私用と同じアカウントを使っていれば、別の端末からも見える形になります。連絡先を仕事と私用で分ける時に見る場所は、連絡先の同期から身バレする仕組みにまとめています。

メモや写真も、クラウド同期を有効にしていれば別の端末へ出ます。仕事用の端末を分けたことと、中に入っているデータの保存先を分けたことは同じではありません。

紙なら同期はしません。その代わり、置いてある場所でそのまま読めます。家の中へ置けば同居している人の目に入り、持ち歩けば落とす可能性があります。

どこへ置いても、持っている以上は漏れる道が一つできます。だから保存先を考える前に、そこへ入れる情報なのかどうかを先に見ます。

トラブルの記録は接客メモと分ける

しつこく連絡が続く。店の外で待たれていた。同じことを断っても繰り返される。

こういう時は、普段のお客さんメモと話が変わります。要るのは次回の会話を続けるための記録ではなく、何が起きたかを後から説明するための記録です。

残すのは、日付と時間、場所、何をされたか、届いたメッセージや着信の記録、その時に誰へ相談したか。スクリーンショットを取るなら、この場面では相手の表示名や日時が分かる形にしておく意味があります。

相手の本名や勤務先を自分で調べることとは別です。身元を詳しく集めるより、起きたことをそのまま残す方が、店や警察へ説明する時につながります。

店で予約を止められる話なら、早めに店へ共有します。一度伝えた後も続いたなら、いつ誰へ伝えたかも残しておくと、同じことが繰り返されていると分かります。

ただし、店の外で待たれている、つきまとわれている、脅されているなど、身の危険を感じる場面まで店だけで抱える必要はありません。警察へ相談する話です。いま危険が迫っているなら、その場から離れて110番です。

接客用のメモは減らす。トラブルの記録は、要る間は消さない。同じ「お客さんの情報」でも、ここは一緒に整理しません。

使わなくなった記録は自動では消えない

残す範囲を決めても、使わなくなった記録をそのままにしていれば量は増えます。一度来ただけの人、長く連絡がない人、もうやりとりしていない人のメモが、何となく端末へ残り続けます。

何か月で消す、と全員を同じ期限にしなくても回ります。見るのは、その記録を次に使う見込みがあるかどうかです。もう使わないと分かったものから消していけば、退店の日に何年分も整理することになりません。

特に辞める時は、一度見直しておくところです。仕事は終わっても、本名や連絡先の入ったメモが自動で消えるわけではありません。自分にとって過去の仕事になっても、そこに書かれた人の情報まで古くなるわけではないです。

ただし、トラブルについて残している記録は別です。店や警察へ相談している途中のものまで、普段の接客メモと一緒に消さないようにします。

普段から使わないものを減らしていれば、最後に残るのは「まだ使うもの」と「理由があって保存しているもの」だけになります。

来なくなった後まで持つ理由があるか

お客さんを覚える仕事なので、何も記録しないという話ではありません。前回の続きから始めるためのメモは役に立ちます。

ただ、その人がもう来なくなった後にも、本名や勤務先やSNSを持っておく理由が残るかというと、ほとんどの場合は別の話です。

来なくなる理由は、こちらからはわかりません。引っ越したのか、飽きたのか、生活が変わったのか。それでもメモの側は残るので、来なくなった人の分だけが端末の中で古くなっていきます。

書かれている側から見れば、一度話しただけのことが、自分の知らない場所で保管され続けている形です。仕事の間だけ手元に置いているもの、と考えると期限が付きます。

鍵を増やして守り続けるより、守るものを少なくしておく。開いたメモの一行について、次に何へ使うのかが言えるなら、それは残していい情報です。