夜の接客業はお客さんと何の話をすればいい?

初めて付くお客さんの部屋に向かう途中、何を話そうかと頭の中で話題を並べてみる。天気の話はさっきもした、仕事のことを聞くのは早すぎる気がする。部屋に入ってあいさつを済ませた後、ふっと会話が途切れる数秒が怖い、という人は少なくありません。

話すのが得意な人のまねをしようとして、話題のストックを増やす人もいます。ニュースを見ておく、流行っているものを調べておく。それも一つのやり方ですが、夜の接客で会話が続く人を見ていると、話題の数より、相手の反応を拾うのが上手なことに気づきます。

話題を探すよりお客さんに話してもらう

夜の接客業に来るお客さんの中には、話を聞いて欲しい人がいます。むしろ、本当はそちら側の人が多い。職場では言えない愚痴、家では話す相手がいない趣味の話、最近あったちょっとした出来事。自分の話を楽しそうに聞いてくれる相手がいることも、来店する楽しみの一つです。

そういうお客さんには、こちらが面白い話を用意するより、話しはじめるきっかけを作るのが向いています。「今日はお仕事帰りですか」「この辺りにはよく来るんですか」。答えやすく、その後に一言続けられる質問です。

反対に、静かに過ごしたいお客さんもいます。こちらが質問しても短い返事しか来ない、話を広げようとしても続かない。そんな時に次々と話題を出すと、相手は答えるだけで疲れてしまいます。最初の会話は、盛り上げるためだけでなく、目の前のお客さんが今日はどのくらい話したいのかを知る時間でもあります。

最初の数分は今日のことを聞く

最初の話題には、今日のことが使いやすいです。ここまでどうやって来たか、雨は大丈夫だったか、今日は休みなのか仕事終わりなのか。お客さんがさっきまで過ごしていた時間の話なので、答えを考える負担が小さくなります。

なんだかんだ言って、一番無難です。

次の話は、返ってきた答えから選びます。「仕事終わりです」と返ってきたら、「遅くまでお疲れさまです。今日は忙しかったんですか」と聞いてみる。「今日は休みで」と言われたら、「お休みの日は何してるんですか」と続ける。一つ目の質問は誰にでも聞けますが、二つ目はその人の答えを聞いていないと出てきません。そこで会話が少しずつ、そのお客さんだけのものになります。

気をつけたいのは、質問を重ねすぎることです。「お仕事は何ですか」「どこに住んでいるんですか」「結婚しているんですか」と立て続けに聞かれたら、話すのが好きな人でも身構えます。

仕事帰りだと聞いても、仕事の中身まで聞き出すことはしません。お客さんが自分から話を広げてくれたら聞く。短い返事なら、そこで話題を変える。返事の長さや表情を見ながら進めると、会話が尋問のようになるのを避けられます。

話しやすい話題と避けたい話題

続きやすいのは、食べ物、旅行、趣味、最近見た映画やドラマの話です。正解を求められる話ではないので、知らないことも「それ何ですか?」「どんなところが面白いんですか?」と聞き返せます。お客さんが好きなものの話を始めたら、こちらが詳しくなくても困りません。知らないからこそ聞けることもあります。

仕事の愚痴や家族の話が出ることもあります。ここで急いで助言をしたり、相手の考えを正したりすると、話の向きが変わってしまいます。「それは大変でしたね」と受けて、もう少し話したそうなら続きを聞く。何か答えを出してほしいのか、ただ聞いてほしいのかも、話しているうちに見えてきます。

避けたいのは、政治や宗教のように考え方が割れやすい話、他のお客さんの話、他の女性やお店の内側の話です。特に他のお客さんの話には気をつけたいところです。「昨日のお客さんがね」と何気なく話しても、聞いている側は、自分のことも別の人に話されるのかと考えます。名前を出していなくても、来店した時間や仕事、会話の内容から誰のことか分かってしまいます。

店の内情や他の女性の悪口も、どこから誰に伝わるか分かりません。その場では盛り上がっても、後から困る話題です。

自分のことはどこまで話すか

お客さんからは、自分のことも聞かれます。出身、昼の仕事、休みの日の過ごし方。話が弾んでいると、つい細かいことまで答えたくなります。

住んでいる駅、通っている学校、昼の勤め先、本名につながる情報は、いくつか組み合わさると身元を探す材料になります。話してから取り消せないので、答える範囲は最初から決めておきます。

聞かれた時に毎回違う作り話をすると、今度は自分が覚えきれなくなります。プロフィールには書いていない設定が増え、写メ日記とも食い違い、前に話した内容を忘れる。会話を続けるためについた小さな嘘が、次に会った時の負担になってしまいます。

好きな食べ物や最近見たドラマなど、身元につながらない本当の話なら自然にできます。詳しく話したくないことを聞かれた時は、答えを広げず、別の話へ戻します。お客さんと仲よくなることと、私生活を詳しく知らせることは別です。話す範囲が決まっていると、会話中も余計な心配をせずに済みます。

沈黙は無理に埋めない

会話が途切れると、何か言わなければと焦ります。さっきまで楽しそうだったのに急に静かになると、つまらないと思われたのかと気になるものです。

けれど、お客さんの側は少し黙っていただけということもよくあります。話すことを考えていたり、ゆっくり過ごしていたりする時に、こちらが次々と話題を出すと、かえって落ち着かない空気になります。

少し間が空いたら、飲み物をすすめる、部屋の温度を聞く、前に出た話へ戻る。「そういえば、さっきの旅行の話なんですけど」と切り出せば、新しい話題を探さなくても会話はつながります。新しい話を始める負担も小さく、お客さんが続きを話したいかも分かります。

会話が苦手な人は、うなずく、相手の言葉を短く繰り返す、「それでどうなったんですか」と続きを聞くところから始められます。自分がたくさん話すより、相手が気持ちよく話せる時間を作る。そういう接客が合うお客さんもいます。

次につながるのは覚えていてくれたこと

二回目に来たお客さんに、前回の話の続きを聞いてみる。「この前言ってた旅行、行けました?」と聞かれたお客さんは、自分の話を覚えてくれていたことに驚いて、そこからまた話が始まります。前回の会話がその場限りで終わらず、次に会った時にもつながっている。それがお客さんにとってはうれしいものです。

覚えておくのは、小さなことです。好きな食べ物、楽しみにしていた予定、最近始めた趣味。次に会った時に、話の続きを聞けるものを選びます。仕事や住所などの詳しい個人情報まで残さなくても、会話のきっかけは作れます。記録するなら、誰かに見られて困る内容は書き残さないでおきます。

前回の話を覚えているだけで本指名になるとまでは言えません。接客全体の印象やお客さんの都合もあります。それでも、前に話したことが次の会話につながれば、初めから話題を探し直さずに済みます。

何を話すか迷った時は、目の前のお客さんが何を話したがっているかに耳を向けます。楽しそうに話したことを一つ覚えておく。次に会った時の会話は、そこから始められます。